洗濯機を机にベランダから

机じゃなくてベランダの洗濯機にパソコンを置いて書いてます。どいせ洗濯機の上で作られた記事だって、さらっと読んでもらえると◎

近所のピアノは結局△

 

今豊島区に住んでて、自宅は駅から徒歩10分ほど。

 

休日に家でのんびりしていると、朝夜関係なくピアノの音がよく聞こえてくる。
それも、小学生が習いごととしていやいや弾いているような、生ぬるい演奏ではなくて、本格的なクラシックの演奏だ。
きっと楽譜は音符まみれで、指がもげてしまう程の難曲なんだと思う。

 
私も、高校まではコンクールで賞を取るくらいにはピアノに打ち込んでいたから、音を聞けば、どの程度のレベルかは分かる。 最近は、聞こえるたびに手を少し止めて聞いていて、ちょっとした日常の楽しみなのだ。
この艶っぽい音を出す人、ちょうどいい間で次の音を焦らす人は、一体どんな姿形で、何歳で、どんな家に住んでるんだろう?
いっそ女性じゃなくて男性だったら萌えるな〜。
平気で数時間ぶっ通しで弾き続けるから、どこの家から聞こえてくるのか気になってきて、いっそのこと探すことにした。
音を頼りにてくてく散歩に出かる。
ストーカー気質あるのかな、と行動に移した自分に引きながらも、気分は探偵だ。

 

音が近づいたり遠ざかったりしながら、なんとなくの場所を探っていく。
自宅からそう遠くはないが、家と家が密集していて意外と特定できない。
すぐそばから音は聞こえるはずなんだけど、豊島区は庶民の住宅街だから、ピアノが置いてありそうな綺麗な家すら見当たらず、結局、私のしょぼい感度の耳じゃたどり着けなかった。
私のストーカー根性は実らずに、変態の散歩は何の展開もなく終わってしまった。

 

この文を書いているたった今も、ピアノの音が聞こえている。
最近は、同じフレーズを何度も反復練習していて、同じところで間違えて、「次こそは」と弾きなおしては、また同じところでつまずいている。
何かの課題曲なのか、ただ好きで選んだ曲なのかは分からない。
一人暮らしなんだろうか、それともまだ学生で、実家のピアノで弾いているんだろうか。
そんな正体も分からないピアノの音に、体をゆらしている。

 

素敵なピアノを鳴らす人に会いたかったが、正体が分からないまま、うやむやにしておくのも悪くない。
なんだか現代は、はっきりさせなきゃいけない場面に遭遇することの方が多いけど、何もかも、はっきりとさせるのは、たまに鬱陶しいんじゃないか。

 

好奇心の赴くまま行動した結果、納得する答えを見つけたなら、それは素晴らしいことだし、分からなくても、それはそれでワクワクできるから良い。
正体が分からないからこそ、好奇心の湧く余地があって、惹きつけられる。
分からないからこそ、知りたくなって、ついつい行動してしまう。
「正体不明」でグレーゾーンであることは、サンカクじゃなくて意外とマルなのかもしれないな。

マルでもない、バツでもない、そんなサンカクなグレーゾーンの正体はあえて暴かずに、好奇心にそそられるがまま、妄想してニヤニヤするのもなんだか楽しい。そのグレーゾーンでゆらゆら揺れること自体を楽しめたら、きっとどんなことでも嬉しい。

気を緩めて「分かる分からない」「知る知らない」の間をゆっくり旅すればいいのだ。

分かりやすく言うならば、この状態は、着衣セックスと似ている。 服を一枚一枚脱がせて、身体の輪郭、ディテールをはっきりさせて楽しむのもいいけど、肝心なところは見えない下着だけ着けた状態を楽しむような、じれったさとか、もどかしさとか、エロい余裕もいいなと思う。たまには変態スタンスもアリだな、とクラシカルな音楽を聴きながら思ったわけです。

人生は、たまに着衣セックスでいい。

atこれは洗濯機を机にしながらベランダで書いています。